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Accueil / 恋愛 / はじめまして、期間限定のお飾り妻です / 1話 落ちぶれた男爵令嬢
はじめまして、期間限定のお飾り妻です
Auteur: 結城 芙由奈

1話 落ちぶれた男爵令嬢

2025-01-18 10:14:42

 イレーネ・シエラは今、とても追い詰められていた――

「一体どうするつもりなんだ? イレーネ。このままでは後半月でこの屋敷は差し押さえられるぞ?」

イレーネと幼馴染。弁護士に成り立ての栗毛色の髪の青年、ルノー・ソリスの声が部屋に響き渡る。

何故、彼の声が響き渡るかというと、この屋敷にはほぼ家財道具が無いからであった。

「ええ、そうよね……どうしましょう。まさかお祖父様が、こんなにも借金を抱えていたなんて少しも知らなかったわ。そんなに派手な生活はしていなかったのに……」

古びた机の上には書類の山が置かれている。

イレーネはブロンドの長い髪をかきあげながら書類に目を通し、ため息をついた。

その書類とは言うまでもなく、祖父……ロレンツォが遺してしまった負債が記された書類である。

「イレーネ、おじいさんを亡くしてまだ三ヶ月しか経過していない君にこんなことを言うのは酷だが……もう爵位は手放して誰か金持ちの平民に買い取ってもらおう。そうすればこの屋敷だけは残せる」

「ええ。そうなのだけど……お祖父様の遺言なのよ。絶対に男爵位だけは手放してはならないって」

イレーネは祖父の遺した遺言書を手に取り、ため息をつく。

「それはそうかも知れないが……住むところを失っては元も子もないだろう? 大体君は病気で倒れたおじいさんの看病をするために、仕事だって辞めてしまったじゃないか」

現在二十歳のイレーネは花嫁修業も兼ねて、エステバン伯爵家でメイドとして働いていた。しかし、半年ほど前に祖父が病気で倒れてしまったために仕事を辞めて看病にあたっていたのだ。

「仕方ないわ。ソリス家はお金が無くて使用人たちは全員暇を出してしまったのだから。私がお祖父様の看病をするしかなかったのだもの。それにお祖父様は子供の頃に両親を亡くした私を引き取って今まで育ててくれたのよ? 遺言を無下にすることは出来ないわ」

「だけど、君は今まで必死になって頑張ってきたじゃないか。家財道具を売り払って、おじいさんの治療費にあててきただろう? その結果がこれだ。もうこの屋敷には売れるものすら殆ど残っていないじゃないか。それなのにまだ五百万ジュエル以上の借金が残されているんだぞ? どうやって返済するつもりなんだ」

ルノーはすっかりがらんどうになった室内を見渡す。

「銀行から借りるっていうのはどうかしら?」

イレーネはパチンと手を叩いた。

「それは無理だな。銀行は返せるあても無い者に金を貸すような慈善事業は行っていない。早く結論を出さないと、この屋敷が差し押さえられるぞ? もう男爵位は諦めて手放せよ。それで俺と同じ庶民になろう?」

「ルノー。あなたが私を心配してくれるのは嬉しいけど、それでもやっぱり爵位は駄目。手放せないわ。だって祖父の最期の遺言なんだもの。死の間際、お祖父様は私の手をこうやって握りしめてきたのよ?」

イレーネは席を立つとルノーに近づき、両手をギュッと握りしめてきた。

「イ、イレーネ?」

狼狽えるルノー。そんな様子に気づくこともなく、イレーネはルノーの手を握りしめたまま見上げる。

「イレーネ。私の最期の願いだ。どうか二百年続いたシエラ家の爵位を守り抜いておくれ……そう言ったのよ?」

イレーネはにっこり微笑むと、ルノーの手をパッと離した。

「そ、それじゃどうするんだよ……?」

「決まっているじゃない。どうせこの屋敷は築二百年でボロボロ。雨漏りも酷いし、床板はあちこち割れている。でも、修繕するお金も無いもの。このお屋敷を手放して借金を返すことにするわ。それで住み込みで雇ってくれるお屋敷を探すことにする」

「住み込みでって……ここを出ていくつもりなのか?」

「ええ。そうよ」

「だ、だったら俺の実家で暮らさないか?」

ルノーが身を乗り出してきた。

「それは駄目よ。婚約者がいる人の実家に私が住むわけにはいかないでしょう?」

「こ、婚約者って……彼女はまだ……!」

「職場の上司のお嬢さん……確かクララさんだったかしら? 彼女に悪いわ。私なら大丈夫、こう見えても結構たくましいんだから。さて、そうと決まったら早速出かけなくちゃ」

イレーネは机の上の書類を片付け始めた。

「え? 出かけるってどこへ?」

「町へよ。職業紹介所へ行って住み込みの仕事が無いか探してみるわ」

「決意は固いんだな……仕方ない。なら、町まで送るよ。ここまで馬車で来たから乗せてやる」

「本当? ありがとう。それじゃ、すぐに準備してくるから待っていてね」

「ああ、待ってるよ」

ルノーの返事を聞くと、イレーネはいそいそと自分の部屋に向かった。

「全く……人の気持ちも知らずに……」

ひとり、部屋に残されたルノーはため息をつくのだった――

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